家康没後400年に際して その3 亀姫 1
- 公開日
- 2015/09/25
- 更新日
- 2015/09/25
校長
本日もあいにくの雨ですが、色とりどりのコスモスが見頃を迎え、秋の訪れを伝えています。
秋分も過ぎ、朝夕も肌寒さを感じるようになってきましたが、コスモスを見るにつけ、季節は夏から秋へと着実に移ろいでいるなと感じます。
前回は、長篠城主「奥平家」にまつわるお話を真田家と絡めてお話ししました。
「奥平家」の寝返りを別の視点から見ると、また違ったものが見えてきます。
今回は徳川家から嫁いだ「亀姫」に視座を置いて、少し詳しく奥平家を見てみましょう。
徳川家康の正室の長女「亀姫」は奥平信昌へ嫁いでます。
戦国の姫君というのは、自らの意思とは関係なく、同盟や駆け引きのための道具として政略結婚の果てに、非業の死を遂げたり、寂しい晩年を送る事が多いのですが・・・
この姫が生まれた永禄三年(1560年)3月18日は、桶狭間の戦いの2ヶ月前です。彼女もまた歴史の渦中に飲み込まれていく事になります。亀姫の母は、桶狭間に散った今川義元の姪・瀬名姫(後の築山殿)です。
義元の死によって人質生活から開放された父・家康(松平元康)でしたが、今川衰退の後、一旦は同盟を結んでいた武田信玄が、駿河国の今川領(静岡県東部)に侵攻します。その後、元亀3年12月22日(1573年1月25日)に起こった武田信玄軍2万7,000〜4万3,000人と徳川家康、織田信長からの連合軍1万1,000〜2万8,000人との間で行われた三方ヶ原の戦いでは、武田軍200人の死傷者に対し徳川軍は2,000人。さらに有力な武将を失うという手痛い敗北を味わいます。
成長した亀姫に、三河北部に位置する長篠城主・奥平貞能の嫡男・貞昌との縁談の話が舞い込んできます。武田氏の勢力を牽制するため有力な武士団・奥平氏を味方に引き入れることを考えた家康は織田信長に相談すると、信長は「家康の長女・亀姫を貞能の長男・貞昌に与えるべし」との意見を伝えたのでした。
長篠は武田家の傘下にありましたが、家康としては是非とも手に入れておきたい要所です。当時の家康は、三河(愛知県東部)の田舎大名でしたが、奥平は、さらにその下の国人、土豪ような身分です。政略結婚といえども完全に格下の家に長女を嫁に出すとは、いかに家康が長篠を手に入れたかったかがわかります。
逆に、奥平からすると願ってもない良縁です。この縁談を承諾することは、武田から徳川に寝返るという事になります。奥平家は武田方に祖父を中心とする一族がとどまります。徳川方とに一族が分かれても「家」を護ることを選択します。
元亀4年6月22日、貞能は家康に貞能・貞昌親子の徳川帰参の意向を伝え、再び徳川氏の家臣となります。貞能・貞昌親子の寝返りを受け、天正元年(1573年)9月21日に武田勝頼は奥平氏が差し出していた人質を処刑します。
亡き武田信玄の後を継いだ武田勝頼は、天正3年(1575年)5月に1万5,000の大軍を率いて長篠城へ押し寄せます。
天下の武田を相手に奥平だけでは到底防ぎようもなく、貞能は家康に救援を要請します。織田信長も駆けつけ、織田鉄砲隊の「三段撃ち」なる戦術が展開された「長篠の戦い」が勃発するのです。
この戦は、長篠城の包囲を巡る攻防戦と設楽原(したらがはら)の戦いの二つ分けることができます。設楽原の戦が「鉄砲VS騎馬隊」の戦いで、その後の兵法・戦術に大きな変化をもたらす鉄砲の集団的使用による日本初の戦いです。
家康と信長が到着するまでの間、若干21歳の貞昌は、勝頼の攻撃に耐え、見事、長篠城を守り抜きます。磔に散った鳥居強右衛門(とりいすねえもん)の話もありますが省略します。
長篠の合戦は、織田・徳川連合軍の勝利に終りますが、これには、武田方からの再三の開城要求に応じなかった貞昌の力に負うところも多く、信長は大いに喜び、貞昌に自分の一字を取って信昌という名前を与えます。小田原征伐にも従軍し、慶長6年 (1601年)には美濃加納10万石の大名へと大出世を遂げます。
信昌の妻となった亀姫は、その後、加納御前と呼ばれます。しかし、4年後の天正7年(1579年)に悲劇がおこります。
謀反の疑いをかけられた兄・信康と、母・築山殿が、父である家康の手によって死に追いやられたのです。戦国の世とはいえ、家康および亀姫の心情はいかばかりであったでしょうか。
司馬遼太郎氏は、「武士の人間関係は主従という繋がりと、父子、夫婦という関係があって成立している。後の世の朋友、友達といった関係はきわめて濃度が薄く、現実にその関係があっても、近代のように“友情”といった倫理概念にまでは発達していない。」と著書「関ケ原」の中でいってます。時代背景と共に人々の心のあり方も違うのでしょうか。
長くなりましたので、今回はここまでといたします。
次回は、亀姫の晩年についてお話ししようと思います。